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瀬戸内側でも豊臣が陣を展開させている。

元親がもたらした情報に、政宗と小十郎は同じ考えに辿り着く。

「誘導されたな長曾我部」

「あん?」

どういうことだ、と元親の視線が小十郎に向けられる。

「いくら迂回したと言え、ここにいること事態おかしい。東から陸路を来た俺達とぶつかるはずがねぇんだ」

伊達と長曾我部がやりあう様誘導された線が高い。

「ha、これも豊臣の策の内ってか。ますます気に食わねぇぜ」

どこからどこまでが豊臣の策なのか。踊らされるのは好きじゃねぇ。

政宗はスッと細めた鋭い眼光を、顔色を変えて黙り込んだ慶次に向ける。

「これでアンタの思い通りか、風来坊」

「な!?いきなり何の話だい独眼竜?」

「豊臣と聞いてアンタは顔色を変えた。その上、西海の鬼…陸に不慣れなこいつをここまで連れて来たのはアンタだ。アンタが誘導したとも考えられる」

射抜く様な政宗の視線に慶次は居心地悪そうにたじろぐ。けれど慶次はきっぱりと違う、と首を横に振って政宗の言葉を否定した。

「証拠は?」

「………」

「それは俺が保証するぜ独眼竜。疑う気持ちも分からねぇでも無いが、ここは一つこの西海の鬼を信じちゃくれねぇか」

初対面でこう言うのもなんだが、鬼の目は節穴じゃねぇ。

ジッと探るように、眼帯をつけていない互いの目線が絡まった。

ふっと政宗の視線が緩み、元親の肩から力が抜ける。元親は政宗に対し、自分が気を張っていた事に気付いた。

「OK.完全に信用するわけじゃねぇが、今はそういうことにしといてやる」

「悪ぃな」

ほっと息を吐いた慶次と、政宗と元親のやりとりが一段落したのを見計らい小十郎がもう一つ気掛かりなことを口にする。

「船はまだ瀬戸内近海にいるんだろう?部下に任せたと言っていたが大丈夫なのか?」

「ん?おぉ。アイツ等にはいざとなりゃ逃げろと言ってある。まぁ、毛利の野郎が何とかするだろう」

毛利 元就。安芸の知将。
しかし、最近まで長曾我部と毛利は敵対していたはずだ。

それを知っている小十郎は訝しげな顔をし、それに気付いた元親は苦笑を溢した。そして、言い切った理由を口にする。

「船にはからくり兵器が乗ってる。それを動かす為にゃ兵器を動かせる知識を持った人間、人員がいる」

毛利はいつだったか俺等が所有するからくり兵器を良いものだと公言していたし、四国も手にいれるつもりでいる。

「ま、嫌みなぐらい頭のキレる奴だ。有益だと認めたもんなら守ろうとすんだろうし、今は敵でも後々自分のものになると考えれば自ずと答えはでる」

刃を交えたからこそ分かる相手のこと。信頼とは違う何か。

「かといって、そう簡単にくれてやるつもりはねぇがな」

にやりと口角を吊り上げ笑った元親は好戦的な瞳で、船上にいるであろう己の宿敵を思った。







ゆらりと焚かれた篝火が潮風に揺れる。岸辺に整然と並ぶ兵を視界におさめ、無表情だったその唇が弧を描いた。

「風が変わる。…弓隊前へ」

ひやりとした熱を感じさせない声が甲板に響き、弓をつがえた兵士が一列に船の縁へと並ぶ。

「ふん、やはり豊臣か。奇策のつもりか知らんが全ては我の策の内」

ひゅぅと追い風へと向きを変えた風に、甲板に立っていた毛利 元就は速やかに次の指示をとばした。

「我の行く手を邪魔する者共を残らず射かけよ」

采配の代わりに手にした輪刀を振り下ろす。
海上に浮かぶ船の上から陸地に並ぶ兵の元へ、次々と雨の様に矢が降り注いだ。

「アニキ〜、早く戻って来てくだせぇ」

「毛利の野郎に殺される…」

甲板の中には紫色を身に付けた、どこか雰囲気の違う人間がちらほらと見受けられる。

「そこ!無駄口を叩いている暇があるならさっさと上陸の準備をしろ」

「「へ、へいっ!」」

「フン、品のない奴等よ」

陸地の敵を一掃させた毛利は冷めた眼差しで踵を返し、一度船の中へと姿を消した。

その先に、長曾我部が秘密理に開発していたからくり兵器が仕舞われている。

「この戦、生き残るは我ぞ」

豊臣の策など我の知略の前では無意味。
長曾我部もろとも排除してくれるわ。

遠くない未来を思い描き、毛利はふと唇を歪ませた。



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